大判例

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最高裁判所第三小法廷 昭和47(あ)1526 判決

主 文

原判決および第一審判決を破棄する。

被告人は無罪。

理 由

弁護人山川洋一郎の上告趣意は、事実誤認の主張であつて、刑訴法四〇五条の上

告理由にあたらない。

しかしながら、所論にかんがみ、本件記録および当審において取調べをした東京

地方裁判所昭和四七年(刑わ)第五四七七号道路交通法違反等被告事件記録につき、

職権をもつて調査すると次の事実が認められる。

(一) 被告人に対する本件公訴事実は、「被告人は、昭和四六年一一月五日午

前七時五〇分ころ、業務として大型貨物自動車を運転し、東京都中央区ab丁目c

番地先信号機により交通整理の行なわれている交差点を、信号機の表示する赤色(

止まれ)信号に従わないで、d方面からe方面に向かい進行したものであるが、こ

れを道路交通に関する指導、取締りの職務に従事している警視庁中央警察署勤務警

視庁巡査Aに現認され、同区fg丁目h番地先道路で一時停止した際、同所で右巡

査から右道路交通法違反の事実につき職務質問を受けるや、これを無視し逃走しよ

うとして自車を発進させたところ、自転車を運転する同巡査が、自車右側に接近し

て並進しているのを認め、かつ、このような状態で自車の進路を急激に右に変えれ

ば自車を右自転車に接触、転倒させ傷害を負わせるに至ることを認識しながら、あ

えて急激に右転把して自車右前部で右自転車に接触させ同自転車もろとも同巡査を

道路上に転倒せしめ、よつて同巡査に加療約一週間を要する左腰部挫傷等の傷害を

負わせ、もつて、同巡査の前記職務の執行を妨害したものである。」というもので

あつて、第一審裁判所は、右公訴事実にそう事実を認定したうえ、刑法九五条一項

の公務執行妨害罪および同法二〇四条の傷害罪にあたるものとして、被告人を懲役

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八月に処する旨の判決を言い渡した。これに対し、被告人は量刑不当を理由に控訴

の申立をし、原審裁判所は、右申立を理由がないとし、控訴棄却の判決を言い渡し

たのである。

(二) 右の原判決に対し、被告人から申し立てられたのが本件上告であるとこ

ろ、被告人は、原判決後である昭和四七年八月二二日、東京地方検察庁の検察官に

対し、「本件当時大型貨物自動車を運転し、公務執行妨害、傷害の罪を犯したのは、

自分ではなくBであり、自分はBのために身代り犯人となつていたものである。」

として犯人隠避の罪で自首し、これにより本件についてあらためて捜査が行なわれ

た結果、昭和四七年一〇月三日、右Bにつき、道路交通法違反、公務執行妨害、傷

害の各罪、被告人につき、道路交通法違反教唆、犯人隠避の各罪により、東京地方

裁判所に公訴が提起され(同裁判所昭和四七年(刑わ)第五四七七号)、同裁判所

は審理の末、同四八年六月二五日右公訴犯罪事実のすべてを有罪と認め、Bに対し

ては懲役一年、被告人に対しては懲役八月(但し三年間刑の執行猶予)に各処する

旨の判決を言い渡した。この判決に対し、B、被告人、検察官のいずれからも控訴

がなく、右判決は同年七月一〇日確定した。

(三) 右東京地方裁判所昭和四七年(刑わ)第五四七七号事件において取り調

べられた各証拠によれば、前記(一)記載の公訴事実のように、昭和四六年一一月

五日大型貨物自動車を運転して公務執行妨害、傷害の罪を犯したのは、被告人では

なくC株式会社の運転助手のBであること、被告人は当時右大型貨物自動車の助手

席に乗つていたものであること、Bは大型自動車については無免許であり、被告人

は勤務先のC株式会社の上司から助手に運転させてはいけないと再三注意されてい

たのに、無免許のBに右自動車を運転させていた責任を感じ、被告人自ら身代りに

なろうと考え、右自動車が停止した際Bと運転席を入れかわり、警察官に対し、右

自動車を運転しAの自転車に接触させた犯人は自分である旨虚偽の申立をしたこと、

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被告人は前記のように起訴されて懲役八月に処せられ、これに対する控訴も棄却さ

れたため、真実を述べる気となり、前記(二)のように犯人隠避の罪で自首し、捜

査官による捜査の結果、右のごとき真相が判明するにいたつたこと、以上の諸事実

を明らかに認めることができる。

これらの諸点によつて考えると、本件被告人については、原判決後において、刑

訴法四一一条四号、四三五条六号にいわゆる再審の請求をすることができる場合に

あたる事由があることになり、しかも、原判決を破棄しなければ著しく正義に反す

るものと認められるから、原判決およびその認容する第一審判決はともに破棄を免

かれない。そして、本件については、訴訟記録および当審において取り調べた証拠

によつて直ちに判決をすることができるものと認められるから、同法四一三条但書

により、被告事件についてさらに判決をすることとし、同法四一四条、四〇四条、

三三六条により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

検察官辻辰三郎公判出席

昭和四八年九月一八日

最高裁判所第三小法廷

裁判長裁判官 関 根 小 郷

裁判官 天 野 武 一

裁判官 坂 本 吉 勝

裁判官 江 里 口 清 雄

裁判官 高 辻 正 己

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